富山地方裁判所高岡支部 昭和63年(ワ)47号 判決 1989年8月11日
主文
一 被告は、原告に対し、金二五〇〇万円及びこれに対する昭和六三年四月一四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金二五〇〇万円及びこれに対する昭和六二年五月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 第一項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 亡松本泰広は、昭和六二年五月二〇日午前一時三五分頃、富山県氷見市鞍川七〇番地先国道一六〇号線上において、訴外窪正明運転の普通乗用自動車に同乗中、右訴外窪が右自動車を暴走させ、右国道の左側端に設置されたガードレールに衛突させる事故を起こし、右事故による脳挫創のため、富山県厚生農業協同組合連合会高岡病院において死亡した。
2 損害
(一) 医療関係費 金二万九五〇〇円
(二) 葬儀費 金一五七万〇一〇〇円
(三) 逸失利益 金三五四八万五六六四円
亡泰広は、死亡当時一七才であり、昭和六二年四月二三日から訴外株式会社三井メタリツクに塗装工として就職していた。
同人の逸失利益については、右会社に就職して間がなかつたから、現実の収入については算出が困難であり、全労働者の平均給与額を基礎として算定すべきである。全労働者の平均給与月額金三二万四二〇〇円に生活費控除を五〇パーセントとしてライプニツツ方式により逸失利益を算出すると金三五四八万五六六四円となる。
(四) 原告固有の慰謝料 金七五〇万円
3 原告は、亡泰広の母であり、亡泰広の損害の二分の一を相続し、前記(一)(二)の損害の二分の一を負担したから、本件事故により、前記(一)ないし(三)記載の損害の二分の一である金一八五四万二六三二円及び(四)記載の損害金七五〇万円の合計金二六〇四万二六三二円の損害賠償請求権を取得した。
4 訴外松本善治は、被告との間で、本件自動車について自動車損害賠償責任保険を締結していた。
よつて、原告は、被告に対し、自動車損害賠償捕償法一六条一項に基づき保険金額の限度である金二五〇〇万円及びこれに対する本件事故の日である昭和六二年五月二〇日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は知らない。
3 同3の事実のうち、原告が亡泰広の母であることは認める。その余は争う。
4 同4の事実は認める。
三 抗弁
1 本件自動車は、亡泰広の父松本善治が所有占有していたものであるが、本件事故の約六時間半ほど前に亡泰広が右善治に頼んで訴外窪に貸与してもらつたものであるところ、その使用目的は亡泰広及び訴外窪が両名の上司である斉藤昇と高岡市内で会うのに使用したいというものであつて、本件事故はその斉藤と会った帰途の亡泰広同乗中の事故であり、亡泰広は、本件自動車の運行を支配している立場にあり、且つ運行目的も訴外窪と共遣であつたことからして、亡泰広は自動車損害賠償保障法二条三項にいう自己のために自動車を運行の用に供するものであると言うことができる。
亡泰広は、従前単車を利用して通勤していたところ、その単車が壊れたため、同人の通勤のためにわざわざ訴外窪が原告方に寝泊まりするようになり、本件自動車を右訴外窪が運転して亡泰広とともに会社へ通うという状態であり、訴外窪は原告方に亡泰広と同居し、同人の運転手の役割をしていたものであり、本件事故直前においては、本件自動車は、松本善治のためにではなく、亡泰広のために利用されていたと言っても過言ではない状況で、亡泰広は、訴外窪を介して、父善治以上に本件自動車を直接的、顕在的、具体的に支配していたものである。
2 原告は、本件事故による原告固有の慰謝料を請求しているが、亡泰広は自動車損害賠償補償法三条の他人とは言えないから、亡泰広に対し保険契約者である訴外松本善治の賠償責任の有無を前提とする原告の慰謝料についても、被告には支払義務がない。
仮に右が認められないとしても、自動車損害賠償責任保険の支払基準は、死亡事故について遺族の慰謝料は請求者二名の時は金五五〇万円であるから、被告はこの半額である金二七五万円の支払義務しかない。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1は争う。
本件自動車が亡泰広の父松本善治が所有占有していたもので、本件事故の約六時間半ほど前に訴外窪が借り受けたものであるところ、その使用目的は亡泰広及び訴外窪が両名の上司である斉藤昇と高岡市内で会うのに使用したいというものであつて、本件事故はその斉藤と会つた帰途の亡泰広同乗中の事故であることは認めるが、亡泰広は、本件当時一七歳で、未だ運転免許も取得しておらず、本件事故当時は訴外窪が運転し、亡泰広は助手席に同乗し眠つており運転もしていなかつた。そして、訴外窪が訴外善治から本件自動車を借りるに際し、善治から酒を飲みに行くのではないかと尋ねられ、飲んだら代行運転で帰る旨約束して借りているものであり、運転終了後は直ちに善治に本件自動車を返還することが予定されており、善治の本件自動車に対する支配は失われていない。
亡泰広が従前単車を利用して通勤していたことは認めるが、単車が壊れたことから亡泰広の通勤のために訴外窪が原告方に寝泊まりするようになつたのではなく、以前から寝泊まりしたことがあり、また、亡泰広よりも訴外窪の方が年令も上であり同人が主導権を持つて動いていたものであつて、決して同人が亡泰広の運転手であるという関係にはなかつた。
2 抗弁2は争う。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1及び4の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、抗弁について判断する。
成立に争いのない甲第一一ないし第一五号証、証人松本善治の証言及び原告本人尋問の結果によれば、本件自動車は、亡泰広の父松本善治が所有占有していたものであるところ、亡泰広と訴外窪とが両名の上司である斉藤昇と高岡市内で会うのに使用したいということで本件事故の約六時間半ほど前に亡泰広も口添えして訴外窪において右善治がら借り受けたものであつて、本件事故はその斉藤と会つた帰途の亡泰広同乗中の事故であるが、亡泰広は、本件当時一七歳で、未だ運転免許も取得しておらず、本件事故前高岡市内で飲酒した後本件自動車で帰途に着いたが、発進する前から助手席で眠り込んで本件事故時に至るまで寝ていたこと、訴外窪が訴外善治から本件自動車を借りるに際し、善治から酒を飲みに行くのではないかと尋ねられ、飲んだら代行運転で帰る旨約束していたもので、本件自動車は運転終了後直ちに善治に返還されることとなつていたこと、訴外窪の方が亡泰広よりも年令も上であり同人が以前から主導権を持つて動いていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。なお、前掲各証拠によれば、亡泰広と訴外窪とは同じ会社に勤務していたところ、本件当時訴外窪が亡泰広の家に宿泊して、本件自動車を運転して亡泰広と会社まで通勤するようなことがあつたことは認められるが、右各証拠によれば、また、亡泰広と訴外窪とは、亡泰広が右会社に勤務するようになる以前からの友人で以前にも訴外窪は亡泰広方に寝泊まりしていたことが認められ、また、前記認定のとおり訴外窪の方が亡泰広よりも年令も上であり同人が以前から主導権を持つて動いていたというのであるから、結局、訴外窪が亡泰広の運転手であるという間係にあつたと認めるに足る証拠はない。
以上認定の事実によれば、亡泰広の本件自斬車の運行に対する支配が訴外窪もしくは訴外善治に比し、直接的、顕在的、具体的であると認めることができず、結局、亡泰広は、本件自動車の単なる同乗者としての立場を出るものでなく、自動車損害賠償補償法三条の他人と認めることができる。
三 損害
1 原告は、請求原因2(一)(二)の損害についてその半額を負担したと主張し、原告本人尋間の結果中にはこれに副う部分もあるが、原告本人尋問の結果によれば、また、右費用は、家計から支出したものであるところ、本件事故当時夫の漁業の手伝いと家事をしていたと認められ、むしろ、夫である訴外善治が負担したと推定され、原告が右損害について半額を負担したと認めることはできない。
2 逸失利益 金三五六四万五六〇七円
証人松本善治の証言及び原告本人尋問の結果によれば、亡泰広は、死亡当時一七才であり、昭和六二年四月二三日から訴外株式会社三井メタリツクに塗装工として就職していたこと及び右会社に就職して間がなかつたことが認められる。そうすると、亡泰広の逸失利益については、新中卒の男子労働者の平均給与額を基礎として算定するのが相当である。新中卒の男子労働者の平均給与年額金三九〇万五一〇〇円に生活費控除を五〇パーセントとしてライプニツツ方式により逸失利益を算出すると金三五六四万五六〇七円となる。
3,905,100×0.5×18.25592546=35,645,607
3 慰謝料 金七五〇万円
亡泰広の慰謝料の原告の相続分及び原告固有の慰謝料を含め、金七五〇万円が相当である。
4 原告が亡泰広の母であることは当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果によれば、亡泰広の相続人は、原告と亡泰広の父である訴外善治の二人であることが認められるから、原告は、亡泰広の右2の損害の二分の一を相続し、原告の損害は合計金二五三二万二八〇三円となる。
四 右によれば、原告は、被告に対し、自動車損害賠償保障法一六条一項に基づき保険金額の限度内である二〇二五万八二四二円の支払を求めることができるが、被告の右支払債務は、期限の定めのないものと言うべきであるから、被告は、請求の時から履行遅滞の責を負うことになるが、原告は本訴請求以外に右請求をしたとの主張がないから、結局、被告は、訴状送達の日の翌日から遅滞の責を負うこととなる。
五 以上によれば、原告の請求は、被告に対し、自動車損害賠償補償法一六条一項に基づき保険金額の限度である金二五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六三年四月一四日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について民事訴訟法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 廣永伸行)